【特集】「そもそも自分って本当に正しいのか」(1)・(2)・(3)インタビュー記事に引き続き、『Network9』2023年7月号~2024年6月号の1年間にわたり、毎号の表紙を飾った写真に込められた気持ち「エッセイ」を写真と共に2回にわたって紹介するページ(4)・(5)となります。
藤森さんは写真に一言を添えた詩集『いろいろ問うてみる』(文芸社)を2021年に自費出版されており、シンプルでまっすぐな言葉と写真は読者に様々な思いを想起させます。
主にインドでの旅先で撮られた何気ない写真からは、欲望渦巻く現代社会で悩む私たちの課題を浮き彫りにしているように感じました。
今回の特集では、藤森さんがどのような縁で写真集を出そうと思ったのか、また旅先での出来事から自分自身が問われていることは何だったのかなどをお話いただきました。
『Network9』2023年7月号より引用
藤森 和貴氏(東京7組 常願寺住職)
1986年、東京都文京区生まれ
初めて訪れた国インドに魅了され写真を撮り始める
主著に写真エッセイ集『いろいろ問うてみる』(文芸社)がある。

―毎号の表紙を飾った「写真」と気持ち「エッセイ」 前編―
1.「おかげ様です。」

インド、バラナシ。ヒンドゥー教徒にとっての聖なる河、ガンジス河が流れるこの街。
11月上旬。日本では紅葉で木々が色づき始め、気候的にも過ごしやすい。だがここはインド。茹だるような暑さが連日続く。日中は皆、特に目的もなく涼を求めて彷徨い歩く。それは人間だけに限らない。この街の住人でもある犬や牛、ヤギにも言えることだ。
しかし、この河沿いのガートでは日陰を探すのも一苦労なのである。なぜなら対岸から日が昇り、日中は日を遮るものなどほとんどないからだ。その日差しを直に浴びなければならない。
そんな中、ちょうどいい所に日陰を発見した二匹の野良犬。ここらでちょっと一休み。「お陰さまです」
2.「支えがあって、はじめて立てる。」

かつてのスコータイ王朝が築かれたこの一帯は、今なお多くの遺跡が点在している。うだるような暑さの中、自転車に跨り遺跡群を駆け巡る。
そんな中、ある遺跡の片隅に目をやると、二つの不思議な石を発見した。お互いが倒れてしまわぬように、必死になって支え合っている。互いが互いを支え合ってできたとも言われている「人」という字にも見えてくる。どちらかがいなければ、どちらも倒れてしまうだろう。そこに支えてくれる何かがあって、はじめて立っていられる。
ふと我を振り返る。自分もきっと何かによって支えられている。でなければとっくに倒れているんだから。
3.「そういうこともありますよね」

ご門徒宅で行われた法事での出来事。後ろの方が少しざわついている。どうやらある方が何か忘れ物をしたらしい。(何を忘れたのかはわからなかったが)忘れた本人はとても焦っている。周りの者は皆、口には出さないが「何でそんな大事なものを忘れたんだ」と言わんばかりにイライラしている模様。場の空気も段々と気まずくなっていく。
そんな中、近くにいた親戚のおばさんが一言。「そういうこともありますよ」 人間は相手の欠点を見つけては攻撃したがる生き物である。そんな一切を包み込む不思議な言葉だった。そのとき、ほんわりと温かい気持ちになったのを覚えている。
4.「脇道にそれなければ会えない景色がある。」

インド、ブッダガヤ。仏教徒にとって非常に大切な場所である。この街には一週間ほど滞在した。小さな小さな街である。故に、一週間もいれば行動範囲も限られてくる。
私の旅のスタイルはとにかく歩く。ひたすら歩く。この日も朝から歩き回った。だがちょっと疲れた。まだ昼過ぎだというのに早々に宿に戻ろうか迷う。しかし、せっかく来ているのだからと、もう少し歩いてみる。いつもと違う道。ちょっと脇道にそれてみる。
しばらく歩いていると、子どもたちが楽しそうに遊んでいた。異色の日本人を発見し、こっちに来いと手招きしてくる。そのまま仲間に入れてもらう。
脇道にそれてはじめて出会える人もいる。あのときすんなり宿に戻っていたら。違う道を通っていたら。今の私はないのだろう。
5.「そんなに急いでどこ行くの?」

東京、大手町。朝の通勤時間帯。電車を降りると皆、足早にそれぞれの持ち場へと向かう。秒単位のルーティン。故にその歩調を乱すことなど決して許されない。エスカレーターに立ち止まって乗っていると、後ろから怒号がとんできたこともある。
異国に来ると、緩やかなのんびりとした時間の流れを心地よく感じる時がある。人はそれほど急いでいない。場所さえあればどこでも寝るし、鉄道が何時間遅れようが文句を言う人など見たことがない。以前ネパールを訪れた際、ご飯を食べていると「そんなに急いで食べなくていいよ。ネパールはみんなスローなんだ」と言われたことがあった。
次の予定もあったため、無意識のうちに急いでご飯を食べていたのだと思う。何をそんなに急いでいたのか。ハッとさせられた出来事だった。
6.「壁は外にはなかった。私の内にあった。」

アメリカの第45代大統領トランプ氏(現在第47代大統領)が、メキシコとの国境に壁を作ると高らかに宣言していた。
壁というキーワードが私の中にあった。ちょうどその頃、私はヒマラヤにいた。何週間かかけて、エベレストのベースキャンプを目指すという旅の途中であった。道中は私と同じようなトレッカーとたくさん出会う。そのほとんどが欧米人。アジア人とはほとんど出会わなかった。皆各々のペースで歩いているが、休憩所(といってもそこら辺にある岩場の上)や宿などで会い、知った顔も段々と増えてくる。欧米人はコミュニティを作るのが早い。
出発前の朝、みんなでご飯を食べていた。私は一人、室内の片隅で食事をしていると、「一緒に食べないか?みんなで外で食べようよ!」とわざわざ誘いに来てくれた。内心とても嬉しかった。だが、その輪の中に入っていくのが嫌になるときがあった。「今日は一人で食べたいんだ」と断ってしまった。壁は最も近くにあった。
『いろいろ問うてみる』著書

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