アソカ幼稚園はバス通りに面し、住宅に囲まれた所にあります。狭い園庭の中で、少しでも「自然」を感じられる場を作りたいと思うのですが、そんな私の思いとは裏腹に、子ども達はアリの動きを観察したり、だんご虫をケースに入れてみたり、きれいな石ころを発見したり。子どもにとっては「その環境」が「自然そのものなんだ」と思うと同時に、私が提供したいと思う「自然」とは、多くの木々や草花があり、それらが生きる川、海、山をイメージしてしまっている自分の思い込みの様でした。そんな事を思いながらも、私の頭は面白い事捜しに、目をキョロキョロさせていました。
ある時、園から2軒先のお店と隣接地との10センチ程の間にイヌザンショウを発見しました。葉の裏にはキアゲハの黒い幼虫が8匹もついていました。早速、子ども達とお店に行き、お店の方に了解を得て、幹ごともらって来ました。小さな黒い幼虫は脱皮して、所謂、青虫(緑色の幼虫)になります。青虫になると食欲旺盛。葉を食べている間は、葉の所に居ますが、次のさなぎになる時には、都合の良い場所を捜しながら、あちこちと歩きまわります(5ミリ位のすき間でも出てしまいます)。各々がケースの好きな所でさなぎになり、その後、2週間程で羽化します。
その日は年中組が外遊びをしていました。ケースを園庭に出すと、みんな集まって来ました。さなぎからちょうが生まれた事を話すと、誰からともなく ♬生まれたよー生まれたよーちょうちょの赤ちゃん生まれたよー♬ と、盆踊りで使っている「いのちのおともだち」の歌を歌い出しました。ケースのファスナーを開け、飛び立つ準備ができると「おめでとう!」と拍手。「元気でねー」「大きくなってねー」と、口々にその思いを声に出していました。子どもがちょうに願いをかけている姿に、私も願いをかけられている存在だと、改めて思い起こされたひとときでした。
『Network9(2023年2月号)より引用』靍見 美智子(アソカ幼稚園)