ご門徒さんと考えるお寺の防災について(1) に引き続きパート2となります。
今年は関東大震災から100年という節目の年にあたります。また大震災が発生した9月1日は、「防災の日」と定め災害対策を見直すうえで、大切な機縁となっています。
ここ30余年の間にも、大きな地震が毎年のように発生している日本列島。そして近い将来南海トラフ巨大地震をはじめ、私たちがこれまで直面したことのない大規模な震災が必ず起こるだろうと言われています。
さらには地震だけでなく、温暖化に起因する集中豪雨や大型台風などの深刻な自然災害も枚挙に暇がないほど、全国各地で頻発している状況です。そんな中で、私たちは来たる災害とどう向き合い、どのように備えていけばよいのでしょうか。
そこで「お寺の防災について」をテーマに、真宗大谷派東京教区内部署「同朋社会推進ネットワーク」で様々な社会問題に取り組み活動され、防災に詳しい 星野暁(ほしのさとし)氏(茨城県・浄安寺住職)にお話を伺います。『NetWork9』2023年9月号より引用
東日本大震災では自身も被災
2011年の東日本大震災のときには、みんなのために炊き出しをしようとしたのですが、備蓄してあったペットボトルの水だけでは到底できませんでした。お寺に井戸があるのですが、電動のポンプでくみ上げる仕組みでしたので、電気が止まると水が出てきません。幸い薪はあったので、細々とした炊き出しを近所の方に配ることができました。そうした経験から、とにかく水が必要だなと思いました。そして意外と困ったのが安否連絡、これが大変でした。今はLINEなどで「既読」が付けば相手が「存命」だというのがわかりますが、当時はまだありませんでした。広域災害の時は電話が使えず、電気などライフライン全てが止まります。被災時は、まず水と食べ物という発想になりがちだけど、私の地域では食べ物は備蓄があるし、明かりもロウソクならお寺にあります。でも、とにかく連絡がとれないというのが、一番大変だと思いました。その反省から、デジタル簡易無線を購入しました。長いアンテナを立てると30~40キロ離れたところと交信ができます。
国の地震調査研究推進本部によると、30年以内に震度6弱以上の地震が発生する確率が東京都内で74.2%、茨城の水戸になると80.6%になっています。そのため、また起きるだろうという想定で準備しておかなければいけないという思いが強くなりました。また地域によっては下水が3カ月も使えないことがありました。トイレで用を足しても流せないのです。そのときは、便器の中に新聞紙を入れてその上でする、それをビニール袋で二重にして出すように市からの指示がありました。しかし、中には心理的な抵抗があって用が足せず便秘になる人もいたため、簡易トイレをたくさん備蓄しました。
また、阪神・淡路大震災(1995)や中越地震(2004)の時の個人的な経験も役に立ちました。どういうことかというと、自宅から離れた場所で被災した場合、大きい橋はしばらく時間が経つと交通規制がかかって渡れなくなります。時間はかかりますが、できるだけ小さい橋、上流の川を渡って帰るのが良いということです。
ガソリンが無くなるのもわかっていたので、携行缶も常備しています。うちの周りの地域は古い町で、高齢者が多くいます。給水所まで遠いのがわかっていたので、お寺の設備を充実させて、いつでも分けられるように2リットルの空きペットボトルをたくさんストックしております。電気が止まると、回復するときに通電火災が起こることがあります。電気が使えない時は、ブレーカーをすぐ落とすことも忘れないでください。テレビなどでは、避難するときに車を捨てて逃げるように言われています。都内ではそこまでではないけれども、地方では車が無いほうが無謀に感じます。車には情報源のラジオがあるし、充電や暖がとれるため重要です。その他、十徳ナイフや、100円ショップで購入できる小さな携帯ライトも重宝しました。尖ったものが無いとビニール包装などは開けることも困難です。常に携帯していると銃刀法等で問題になる可能性もありますが、必要な道具だと感じました。また被災後に、門徒さんのお家の屋根が壊れ、雨漏りを心配してホームセンターへブルーシートを買いに行ったら、すでに売り切れていて困っていました。そこで、みんなにはあげられないけれども、と寺にあったものを渡したら、涙を流して喜んで帰っていきました。被災後は、ブルーシート1枚でも涙を流すほど助かることがあると知りました。そういう意味ではお寺という場所は可能性がたくさんあります。
「※同朋社会推進ネットワーク」
同朋社会推進ネットワークとは、今から20年ほど前に、世に起きる様々な社会問題に対し、迅速に動ける部署が必要との趣旨から、真宗大谷派東京教区内に「同朋社会推進ネットワーク」が立ち上がりました。性差別の問題、非戦平和の問題、それとボランティアの問題を三本柱に3つのチームを作り活動をしてきました。更に、災害や自死の問題もあり、グリーフケアを学ぼうということにもなって現在に至っております。
パート3(最終)の公開まで少々お待ちください。