ご門徒さんと考えるお寺の防災について(1)、ご門徒さんと考えるお寺の防災について(2) に引き続きパート3となります。
今年は関東大震災から100年という節目の年にあたります。また大震災が発生した9月1日は、「防災の日」と定め災害対策を見直すうえで、大切な機縁となっています。
ここ30余年の間にも、大きな地震が毎年のように発生している日本列島。そして近い将来南海トラフ巨大地震をはじめ、私たちがこれまで直面したことのない大規模な震災が必ず起こるだろうと言われています。
さらには地震だけでなく、温暖化に起因する集中豪雨や大型台風などの深刻な自然災害も枚挙に暇がないほど、全国各地で頻発している状況です。そんな中で、私たちは来たる災害とどう向き合い、どのように備えていけばよいのでしょうか。
そこで「お寺の防災について」をテーマに、真宗大谷派東京教区内部署「同朋社会推進ネットワーク」で様々な社会問題に取り組み活動され、防災に詳しい 星野暁(ほしのさとし)氏(茨城県・浄安寺住職)にお話を伺います。『NetWork9』2023年9月号より引用
平時のつながりの大切さ
お寺という、公共性がある場所ということを考えると、やはり地域の人びとにもお寺を開いて使えるようにしていかなければならないという思いをより強くしました。実際に何か災害が起きたとき、お寺で炊き出しをして「ご飯どうぞ」と言っても、たとえ近所の人でも、普段からあまり関わりがないと受け取りにくくなってしまいます。
それをどうにかしたいという思いもあり、2年ほど前、毎月28日の御命日の集いが、コロナの影響で座談会ができなくなったことを機に、バザーのようなことをしたいという話になりました。そこから現在では毎月28日の午後から、お弁当屋さんのお惣菜や、ご門徒さんが作ったお野菜などを境内に並べて、近所の人に販売するということをやっています。その時に、50食ほどの炊き込みご飯を毎回作っていて、それを「住職手作りの炊き込みご飯」として配っています。ありがたいことに、おいしいと好評なんです。普段何もやっていないところで急に炊き出しをやってみても受け入れてもらえるか分からないですが、そうやって住職が作っているものが普段から食べられていると認知していただくと、食に対する信頼が得られるのだと思います。
お寺というと敷居が高いと言われるけれど、そういう日頃からの関係を作っておけば、もし何かがあったときに、お寺が頼れる場所だと認知してもらえるようになると思います。
まずは自分にできることを
ただ、これは余力があるお寺は準備したらいいということで、必ずしもしなければいけないということではないと思います。やることが良いとか悪いとか、そんなことでは無く、余力があったらやれば良いということです。みんながみんなできる事ではないので。
『寺院のための災害対策ハンドブック』を見ていると、ここに書いてあることを全部やらなければいけないのかという話に、みなさん思われてしまうのですが、全部というのはなかなかできるものではないので、どんなお寺でもこの中のたった一部分でいいから、できることからやっていければいいのです。
たとえばうちの場合、決めていることが一つあります。お寺を避難所として開放しようと思っているのですが、東日本大震災の時に、小さい子どもを抱えたお母さんが避難所で「うるさい」と文句を言われ、行き場がなく不安で仕方がなかったというお話を聞きました。そこで、うちの寺が無事だった時は、小さな子どもを抱えている人たちの避難所として開放しようということにしました。元々お寺で子ども会もやっていて、子どもの玩具なども普段から置いてあるし、それで限定にしよう、それでもどうしても来たい人には、ここは小さい子ども中心の場所だよって言ってしまえばいいわけです。保護者同士であれば、一人の保護者が何人かの子どもを見て、手が空いた方と一緒に炊き出しもできるという発想もありました。
災害の時に何かそういう「したいこと」というのが一つあったとしても、「できること」というのは、なかなかそういう環境がないとできるようにはならない。日ごろからの準備、お寺と地域の人との平時のつながりがあって、あとはこちらに余裕があればできることなのだと思います。ある程度こちらも準備をして余裕を持っておかないと、いくらやりたいという気持ちがあっても、大きな災害が起きた時に準備がなければ、やりたくてもできない。ある程度準備や心づもりをしておけば、できることも少し広がるというところで、お寺というのはそういうことが可能になる現実的な場所なのだと思います。
以 上
「※同朋社会推進ネットワーク」
同朋社会推進ネットワークとは、今から20年ほど前に、世に起きる様々な社会問題に対し、迅速に動ける部署が必要との趣旨から、真宗大谷派東京教区内に「同朋社会推進ネットワーク」が立ち上がりました。性差別の問題、非戦平和の問題、それとボランティアの問題を三本柱に3つのチームを作り活動をしてきました。更に、災害や自死の問題もあり、グリーフケアを学ぼうということにもなって現在に至っております。