あるラジオ番組のゲストに音楽家・石橋英子が出演し、自室の本棚にある書籍を紹介していた。石橋英子は、現在、電子音楽の制作、舞台や映画や展覧会などの音楽制作、シンガー・ソングライターとしても活躍している。
彼女が「人生に影響を与えた一節」として冒頭にあげた言葉とともに紹介していたのが深沢七郎(1914-1987山梨県石和町生れ)著『人間滅亡的人生案内』(1971)の一冊だ。深沢七郎といえば、姨捨山をテーマにした『楢山節考』で、ギターの弾き語りなどをしながら放浪する傍ら小説等を書く生活をし、1968年に重度の心臓発作がもとで亡くなるまでの19年間、闘病生活を送っていた。亡くなるまでは若者と農場を開き、農業に従事していたという。
さて、本の内容は高度経済成長期当時の若者からの実存的な悩みに深沢が答えるという形式で「本物になるには大学へ入り教養を身につけ社会に出て、人間を知らねばだめでしょうか」という問いに「あなたの言う本物とは何でしょう。人間には本物なんかありません。みんなニセモノです。」と答え、最後には「心配なく現在のままでのんびりといて下さい」と答えている。
この言葉に深くうなずいた石橋は「自分を認めてほしいということから解放され毎日ダラダラとした生活の中でも、否(いや)ダラダラとした生活だからこそ大事であると思う言葉に出会えた」と語っていた。逆説的だがラジオを聞いていた私にも残る言葉であった。
『Network9(2022年5月号)より引用』渡邉 誉(東本願寺解放運動推進本部)







