私のお気に入りに『ぼちぼちいこか』(マイク・セイヤー作 偕生社)という絵本があります。主人公は一匹のカバ。このカバがいろいろなことにチャレンジをします。しかし、船乗りになろうとすると体が重すぎて船は沈み、パイロットになろうとすると体が重すぎて飛行機は飛ばず・・・。カバは次々と新しいことに挑み続けるのですが、どれもこれも失敗ばかり。そして最後にカバはこう言います。
「どないしたらええのんやろ。ま、ぼちぼちいこか。」と。
たったこれだけのストーリーなのですが、この絵本がとても気に入っています。
カバは実際に自分の体を動かして、いろいろなことを失敗という形で体験していきます。ところで私たちは、ものごとを体験もせずに知ってしまう知恵があります。実際にそのことをやってもいないのに「ああ、あれはこんなもんだ」という形で自分の中にひとつの答えを持ってしまうのです。しかし、たとえそれがどんなに立派な答えだとしても、実際に自分が体を動かして知った答えではないがゆえに、結局のところ、それは自分が思い描いたイメージにしかすぎず、思い込みの世界の中で生きているということになってしまいます。
失敗をしても失敗をしても、「ぼちぼちいこか」と身を動かそうとするカバの、そのしなやかな姿勢にいとおしさを感じます。同時に、私は今まで実際に身を動かして何をし、何を学んできたのか。これから身を動かして何をしようとしているのかを、考えさせられます。
こんな言葉があります。
「失敗をしたことが一度もないというのは、
一生何もしなかったことと同じです・・・・・」。
失敗をおそれて何もせずに答えを出して落ち着いてしまうより、実際に身を動かして、学び・感じ・考えていくことを大切にしていきたいと思います。そう、失敗なんて当たり前。人間は失敗から学ぶことの出来る、豊かな存在なのですから。
動きながら学ぶ。大切にしたいことは、この一点です。
酒井 義一(さかい よしかず 東京都世田谷区 存明寺住職)